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Columnin the Roughの思いや活動をコラムで綴ります

書家 平野燿華さんインタビュー「筆と墨で心を表現する」最終回(連載全4回)

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書家、平野燿華(ひらのようか)さんの連載最終回。In the Roughで平野さんの個展「時(とき)」が開催されます。海沿いの町での幼少期、ドイツ留学、東日本大震災を経て、さまざまな思いを抱えながら現在の平野燿華になった経緯や書に向き合う姿勢を見てきましたが、今回は今回の個展のテーマである「時」について伺います。「時を重ねる、刻む、時空を飛び越える」、ひと文字に込められた幾重もの思いを紐解いていただきました。

image4→第1回から読む

時間の流れ方、感じ方

今回の個展のテーマを「時」と決めたあと、家族で沖縄に行きました。そこで日の出前から海を眺めていたんですが、夜明け前の景色が少しずつ変化していく様子を見ながら、「ああ、今1秒1秒を感じているなあ」としみじみ思いました。普段ではあまりない時間の感じ方だなって。

ちょうどその頃、10年前の友人との思い出を振り返る出来事もあったんですが、沖縄で感じた「1秒1秒」のように、あっという間に過ぎた「10年」を感じてきたかといったら、全然違うんですよね。どちらも「時間」という言葉でひとくくりにされるものなのに。

5年前の東日本大震災も、私の中ではまだ1、2年前のことのような気がするんです。それに、その年月の間に1秒1秒を感じていたかって聞かれると、全然そうじゃないなあと。「○年前」って言った瞬間に、ブツ切れの「記憶」として切り取られる感じがあって、それは今につながる1秒1秒の積み重ねとは切り離されたもののようで、とても薄っぺらく感じてしまうな、と思ったりしました。

あまりうまく言葉にできないんですが、そういう「時」について考えたときに自分の中に起こる違和感を、少しずつ昇華して作品を作る時の材料にしていこうと、ここ数ヶ月考えていました。

震災。時の捉え方が変わった

以前は割と「今感じていること」を「今書く」感じだったんですが、最近は気持ちを眺めて自分の中で熟成させて、それから書くことが多くなっている気がします。

これはやはり震災が大きな転機になっていると思います。自分の人生で経験したことのない感情だったんですよね、あれは。それまでは、幼くも自分の世界で起きていることに対してだけまっすぐに表現をしていたんだと思うし、そのことによって自分を確立したり、その感情を乗り越えたりというように、解決できるものに向かっていました。

それが震災に生まれた感情は、これまでの方法では処理できませんでした。どこにもやり場のない思いや変えようのない出来事を前に、答えも見えないまま進みながら、いろんな方向から自分に質問をしていき、そこで出てきたものにさらに問いを立てて組み立てていく。そんな作業を繰り返してきたように感じます。

こんなふうに自分の感じていることを言葉にできるまでに3年以上かかりました。時の濃淡、スピード、絡まり方、ほどき方。否が応にも、時の流れに向き合った時期でした。おそらくこの間、自分の中で時間の捉え方が変わったんだと思います。

書きたくなる時。瞬間とつながり

先ほど言ったように、私はコツコツ毎日書く、という感じではなくて、「あ、今書きたい!」と思ったときに筆を握って、何枚も何枚も書いて、そうした中から作品が生まれていました。その「今、書きたい!」って思うときって感情が揺さぶられる瞬間なんですが、以前はどちらかというと、泣きたくなったり怒りたくなったりといった負の感情が襲ってきたときに、それにちゃんと向き合って前に進もう、みたいな感じで紙に向かうことが多かったですね。

それが今は、ふんわりと心が暖かくなるような出来事があって、それを噛み締めているときに書きたくなったり、「なんだこの偶然は!?」って思うような嬉しいことがあったときにじわじわとくるその感情を味わいながら墨を刷ったりしています。時々ニヤニヤしたりしながら。

実はこの個展の準備中にも面白いシンクロニシティがあったんですよ。会場になるin the Roughさんで知り合ったデザイナーの方から、「あかつき(暁)」という言葉を筆で書いて欲しいというお仕事の依頼がありました。暁って、まさに沖縄で「1秒1秒」を感じていた、あの日の出前のほの暗い時間。そのときのことを思い出しながら、どんな書体にしようかなって考えていたんですね。

そのときふと、昔好きだったバンドの歌に「暁」っていう曲があって、それに随分と勇気付けられたことを思い出して、久しぶりにそのバンドのホームページを見たんですよ。そこには、つい最近の更新日とともにこんな文章が。「かつて我々の音楽を聞いてくれたひとたちが5年10年20年とそれぞれの歳月を経て、日々の暮らしや環境や境遇、心にもいろんな変化が起きているある日、ふとしたきっかっけで我々の音楽を思い出したり、聴いたりしてくれる。その時、我々の音楽とともに取り戻すことのできない遠い日々の記憶や感情が色鮮やかに蘇るならば素晴らしい」

今回私が個展で表したかったこととリンクしていて、びっくりしました。「時」を感じている時ときに向き合った「暁」という言葉がキーになって、いろんなことがつながっていく。その感覚に皮膚がざわざわして、夜中に筆をとりました。こういうときに書く時間が持てると本当に幸せだな、と思います。

今回の個展。それぞれの「時」を振り返る

書で創作を始めて、皆さんに見ていただくようになってから12年。いままでの時間をそのままに振り返って、そして今感じていることを作品にしました。

上京まもなく何かにかきたてられるようにその瞬間の思いの丈を紙にぶつけていた日々から、東日本大震災での喪失の大きさに、何を書いて良いか分からずただ墨と向き合った時期を経て、それを静かに振り返る今。その3つの時期の作品を並べて展示する予定です。

「書道って、知識がないとよくわからない」って言われることも多いんですが、私の作品は頭を空っぽにしてみていただけたらなと思います。絵を見て感じることは人それぞれ。そんな感覚で感じたことをお伝えいただけたら嬉しいです。

連載初回でも触れたように、皆さんの「この書、なんかいいな」を探していただければと思います。この個展を見るにあたって、特別な知識も準備も要りません。あなたの感性でお気に入りを見つけてください。そして平野さんの作品の裏にある思いに触れてみてはいかがでしょうか。

一点一点にストーリーがある書です。知れば知るほど興味をそそられること間違いなしです。芸術の秋、墨と筆の表現者による作品をお楽しみください!

 

書展〜時〜

平野燿華 書展 〜時〜

2016年9月10日(土)〜10月2日(日)
10:00-18:00(初日のみ 12:00〜)
当日、平野さんがラベルロゴを担当された「おら酒 風神」も召し上がれます。

書家  平野燿華さんインタビュー「筆と墨で心を表現する」最終回(連載全4回)

【平野燿華さんプロフィール】

宮城県南三陸町出身。大倫書道会師範、日本教育書道藝術院師範科卒。6歳から書道をはじめ、22歳で師範を取得。大学卒業後、ドイツに留学し、勉学の傍ら大学や専門学校で書道講師を務める。帰国後、特許事務所に勤務した後に書家として独立。

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